ジェネラル
ファイルサーバーの暗号化はもう古い?クラウドストレージ移行でセキュリティ強化とコスト削減を両立
現代のビジネスにおいて、ファイルサーバーは重要な情報資産の宝庫です。しかし、サイバー攻撃の増加や内部不正のリスクなどファイルサーバーを狙う脅威は日々深刻化しています。
この記事では、セキュリティ対策として有効とされる「ファイルサーバーの暗号化」と、近年特に注目を集めている「暗号化されたクラウドストレージへの移行」についてわかりやすく解説しました。
企業の大切な資産を守るためにも、セキュリティ強化と業務効率化を両立するための選択肢についてぜひ理解を深めてください。
ファイルサーバーの暗号化とは?
企業にとって重要な情報資産を守るためには、ファイルサーバーの暗号化が不可欠です。ここではまず、ファイルサーバーの暗号化が求められる背景と、暗号化の仕組みについて解説します。
情報漏洩のリスク増加
近年、サイバー攻撃は増加の一途を辿っています。「令和6年版情報通信白書」によると、2023年に観測されたサイバー攻撃関連の通信数は、過去最高となる約6,197億件を記録しました。
参考:令和6年版情報通信白書|第10節 サイバーセキュリティの動向 - 1 市場の概況
攻撃対象はWebカメラやルータといったIoT機器が中心ですが、HTTP・HTTPSで使用されるポートへの攻撃も報告されています。特に企業の機密情報を狙った標的型攻撃や、ファイルを暗号化して身代金を要求するランサムウェアによる被害が拡大しているのが現状です。
ファイルサーバーを狙う脅威
ファイルサーバーは、企業の重要な情報資産が集中しているため、サイバー攻撃の標的になりやすい存在です。ファイルサーバーの脆弱性を悪用した不正アクセスや、マルウェア感染による情報漏洩のリスクは常に存在します。
具体的には、以下のような脅威が考えられます。
不正アクセス:パスワードの使い回しや脆弱性を突いた攻撃を利用して、外部の攻撃者がファイルサーバーに侵入し、データを盗み出す
マルウェア感染:メール添付ファイルや不正なウェブサイトを介して、ファイルサーバーがマルウェアに感染し、データが破壊されたり、外部に送信されたりする
内部不正:権限を持つ従業員が、故意に機密情報を持ち出したり、改ざんしたりする
このような状況下で、企業は個人情報保護法やGDPR(EU一般データ保護規則)などの法規制を遵守し、顧客や取引先の情報を適切に保護することが求められています。
暗号化で情報漏洩対策
ファイルサーバーの暗号化は、情報漏洩対策として有効な手段の一つです。暗号化とは、データを特殊なアルゴリズムを用いて変換し、許可されたユーザーのみがアクセスできるようにする技術です。
暗号化には、以下のような種類があります。
ファイル単位の暗号化:特定のファイルのみを暗号化する
フォルダ単位の暗号化:特定のフォルダ内のファイルをまとめて暗号化する
ディスク全体の暗号化:ファイルサーバーのハードディスク全体を暗号化する
暗号化されたファイルは、たとえ外部に流出したとしても、暗号鍵を持たない限り内容を閲覧することはできません。そのため情報漏洩のリスクを大幅に低減することができます。このように、暗号化は情報セキュリティ対策の基礎となる重要な技術と言えます。
ファイルサーバー暗号化の課題と限界
ファイルサーバーの暗号化は有効なセキュリティ対策ですが、その導入・運用にはいくつかの課題や限界も存在します。
導入・運用コスト
ファイルサーバーの暗号化には、以下のようなコストが発生します。
暗号化ソフトの購入費用
暗号化ソフトは、サーバーの規模や機能によって価格が大きく異なります。数万円から数百万円程度の費用がかかる場合もあります。
導入・設定費用
暗号化ソフトの導入や設定には、専門的な知識が必要となる場合があり、IT担当者の人件費や外部業者への委託費用が発生します。
運用・管理費用
暗号化ソフトの運用・管理には、定期的なメンテナンスやバージョンアップ、セキュリティパッチの適用などが必要です。これらの作業には、IT担当者の人件費や外部業者への委託費用が発生します。
また、暗号化処理はサーバーに負荷をかけるため、パフォーマンスの低下を招く可能性があります。特に、大量のファイルを扱う場合や、アクセスが集中する時間帯には、パフォーマンスへの影響が大きくなる可能性があります。
管理の煩雑さ
ファイルサーバーの暗号化は、管理の煩雑さも課題の一つです。
鍵管理
暗号化されたファイルを復号するための鍵は、厳重に管理する必要があります。鍵の紛失や漏洩は、情報漏洩に直結するため、適切な鍵管理体制を構築することが重要です。
アクセス権限設定
ファイルサーバーの暗号化では、ユーザーごとにアクセス権限を設定する必要があります。アクセス権限の設定が不適切な場合、情報漏洩のリスクが高まる可能性があります。
さらに、暗号化ソフトのバージョンアップやメンテナンスを行う際にはIT担当者の負担が大きくなる可能性もあります。
セキュリティ対策の限界
ファイルサーバーの暗号化は、万能なセキュリティ対策ではありません。暗号化だけでは防ぎきれない脅威も存在します。
ゼロデイ攻撃
ゼロデイ攻撃とは、ソフトウェアの脆弱性を突いた攻撃です。暗号化ソフトに未知の脆弱性が存在する場合、ゼロデイ攻撃によって情報が漏洩する可能性があります。
内部不正
権限を持つ従業員が、悪意を持って機密情報を持ち出す場合、暗号化は効果がありません。加えて、暗号化されたファイルを復号するための鍵が漏洩した場合、暗号化は意味をなさなくなります。
クラウドストレージ移行のメリット
ファイルサーバーの暗号化に伴う課題を解決する手段として、クラウドストレージへの移行が注目されています。
クラウドストレージとは、インターネット経由でアクセスできる外部のストレージサービスです。データセンターに設置された高性能なサーバーにファイルを保存し、必要な時にいつでもアクセスすることができます。
セキュリティ対策の強化
クラウドストレージは、ファイルサーバーよりも強固なセキュリティ対策を備えています。
アクセス制御:ユーザーごとにアクセス権限を設定し、データへのアクセスを制限できる
暗号化:保存データや通信データを暗号化することで、情報漏洩のリスクを低減する
多要素認証:パスワードに加えて、スマートフォンアプリや生体認証などを組み合わせることで、セキュリティを強化する
また多くのクラウドベンダーでは、セキュリティ専門のチームを設けて24時間365日の監視体制でセキュリティ対策を実施しています。データセンターは物理的なセキュリティ対策も万全で、不正アクセスや災害からデータを保護してくれます。
コスト削減効果
クラウドストレージは、従量課金制を採用しているため、使った分だけ料金を支払えば済みます。ファイルサーバーのように初期費用やハードウェアの維持費用、運用・保守費用などがかからないため、大幅なコスト削減が可能です。
たとえばオンプレミスでファイルサーバーを運用する場合、サーバーの購入費用、ソフトウェアのライセンス費用、電気代、保守費用など、年間数百万円のコストがかかることも珍しくありません。
一方、クラウドストレージであれば、月額数千円から利用できるサービスも多く、コストを大幅に抑えることができます。
業務効率化
クラウドストレージは、ファイルサーバーよりも業務効率化に貢献する機能が豊富です。
アクセス制限:部署やプロジェクトごとにアクセス権限を設定することで、情報共有をスムーズに行える
バージョン管理:ファイルの変更履歴を管理することで、誤った編集や上書きを防ぎ、過去のバージョンへの復元も可能
ファイル共有:ファイルを簡単に共有できるため、共同作業が効率化される
またクラウドストレージはモバイルデバイスからアクセスできるため、場所を選ばない柔軟な働き方を実現できます。
クラウドストレージ移行のメリットを最大限に活かすには?
クラウドストレージ移行を成功させるためには、事前の準備と計画が重要です。ここでは、移行をスムーズに進め、メリットを最大限に活かすためのポイントを紹介します。
適切なクラウドサービスの選択
クラウドストレージサービスは、様々なベンダーから提供されており、それぞれに特徴があります。自社のニーズに合ったサービスを選択することが重要です。
サービスを選定する際は、主に以下の点に注目しましょう。
セキュリティレベル:ISO 27001などのセキュリティ認証を取得しているか、データの暗号化やアクセス制御などのセキュリティ機能が充実しているか
ストレージ容量:必要なストレージ容量を確保できるか、将来的な拡張性があるか
機能:ファイル共有、バージョン管理、アクセス制限など、必要な機能が備わっているか
価格:月額料金や従量課金制などの料金体系
サポート体制:日本語サポートの有無、問い合わせ窓口の対応時間など
データ移行の計画と実行
データ移行は、クラウドストレージ導入における重要なステップです。事前に計画を立て、慎重に進める必要があります。
ステップ1:現状分析
ファイルサーバーのデータ容量、ファイルの種類、アクセス頻度などを分析する。
ステップ2:移行計画
移行するデータ、移行方法、移行スケジュールなどを決定します。
ステップ3:環境構築
クラウドストレージサービスのアカウントを作成し、必要な設定を行います。
ステップ4:データ移行
ファイルサーバーからクラウドストレージへデータを移行します。
ステップ5:動作確認
クラウドストレージにアクセスし、データが正しく移行されているか、アプリケーションが正常に動作するかを確認します。
以上のステップを進める際は、データのバックアップをしっかり行い、データ移行中のセキュリティ対策をしっかり講じることが大切です。クラウドベンダーが提供するツールや移行サービスなども利用しながら、作業を進めていきましょう。
セキュリティポリシーの策定
クラウドストレージを利用する際は、セキュリティポリシーを策定し、従業員に周知徹底することが重要です。セキュリティポリシーに含めるべき項目としては、以下のものが挙げられます。
アクセス権限設定:ユーザーごとにアクセス権限を設定し、データへのアクセスを制限する
パスワード管理:強固なパスワードを設定し、定期的に変更することを義務付ける
データのバックアップ:定期的にデータをバックアップし、災害や障害に備える
モバイルデバイスの利用:モバイルデバイスからのアクセスを許可する場合、適切なセキュリティ対策を講じる
セキュリティインシデント発生時の対応:セキュリティインシデントが発生した場合の報告体制や対応手順を明確化する
まとめ
今回はファイルサーバーの暗号化の必要性と課題、そしてクラウドストレージ移行によるメリットについて解説しました。
クラウドストレージは、強固なセキュリティ対策と高い可用性を備えながら、コスト削減や業務効率化にも貢献します。適切なクラウドサービスを選択し、データ移行を計画的に実行することで、セキュリティ強化、コスト削減、業務効率化を実現できるでしょう。
クラウドストレージ移行を検討する際は、この記事を参考にしながら、セキュアかつ効率的なファイル管理体制を構築してください。